秋から冬になると、倉沢園の茶畑がある棚田の里「せんがまち」周辺では、ススキやヨシを刈ったものを束ねて立てる風景が見られます。こうして自然乾燥させた草を細かく切断し茶園の畝間(うねま)に敷くと、フカフカの土壌になります。
この、ススキやヨシを茂らせている半自然の草地を「茶草場」といいます。掛川、菊川、島田、牧之原各市と川根本町のお茶づくりでは伝統的な農法ですが、他県ではほとんど見られない中で、せんがまちは茶草場と棚田が隣接する珍しい地域です。
平成25年にはこのお茶づくりの方法が、世界農業遺産「静岡の茶草場農法」として認定を受けました。 「世界農業遺産」は、農業によって守られている自然や文化を遺していくための制度です。
せんがまちの里でお茶づくりをする私たちは、茶草場と棚田を守っていく活動も行っています。
美味しいお茶づくりは当たり前。先人たちの築いた素晴らしい棚田風景と、茶草場と棚田で持続される多様な生態系を守り共存して行くこと、そしてそれを伝えて行くことも使命だと思っています。
昔、私たちの先祖は山の傾斜地に棚田を切り開き、馬を育てて生活をしており、牧草地の広がっていたこの地域は、江戸時代には「駒場(こまば)の里」と呼ばれていました。
その後、明治初期、職を解かれた武士からなる開拓団の入植と共にお茶の生産が盛んになると、人々は馬を飼うのをやめ、牧草地に生えるススキをお茶の肥料として使うようになりました。
このように馬草はお茶の肥料「茶草」として定着し、伝統的な農法として引き継がれてきました。
昔ながらの、とても手間のかかる農法ですが、お茶作りにとって優れた効果があります。
◎茶畑の雑草を抑えたり、霜や寒さから守る
(お茶の木が小さい時に特に有効)
◎有機肥料として肥沃な良い土ができる
茶草を入れ大切に作られたお茶は、製茶のときに香りが違い、地元では「山側(やまが)の香りがする」と言います。
せんがまちの周りの茶草場と棚田には多種多様な動植物が住んでいます。人が適度に手を入れる事で維持され、山・川・田畑・草地などが隣接した環境。ここでは、例えば原生林において競争力が弱いとされる生き物にも、チャンスが回ってくるのです。
美味しくて良いお茶を作りたいというお茶農家のこだわりがあったからこそ、手間のかかる茶草場農法を継承し、その茶草場が豊かな生態系を育み「生物多様性」が守られてきました。
人間が関わることで、守られる生き物がいる。人間も生態系の一部として暮らしていく文化と知識を伝えるため、私たちお茶農家を中心とした「NPO法人せんがまち棚田倶楽部」では、生き物教室や出張授業にも取組んでいます。
このような里山の生態系とその歴史は、40億年の歴史を持つ地球の中で、ほんの小さな範囲・短いものかもしれませんが、この小さな生態系が、3,000万種ともいわれる地球全ての生き物と複雑に繋がり合っています。
ニホンアカガエル
昔から続く「ふゆみず田んぼ」により冬季でも水のある棚田に産卵し、夏は茶草場で生活しています。
静岡県の絶滅危惧種U類に指定されています。
シュレーゲルアオガエル
初夏にコロコロと良い声で鳴く「棚田の貴公子」。
このカエルも産卵期以外は茶草場で生活しています。
茶草場周辺の秋の七草
皆さんも、生き物のことや、普段食すもの・使うものが、どこでどのように作られたのか、関心を持ってみませんか?
その中で、茶草場農法で育てられたお茶を選んで頂ければ、お茶農家が茶草場と棚田を守り、ここで生きる動植物を守っていくとても大きな力となります!